クロスフィットを理解する上で、まずはしなければならないことは、『フィットネス』という言葉を理解することです。
クロスフィットがフィットネスプログラムである以上、この『フィットネスとは何か?』ということをまず定義しなければなりません。クロスフィットで提唱しているフィットネスの定義は「広範囲の時間域、運動域における高められた仕事遂行能力」です。
仕事遂行能力とは、与えられた仕事をより早く遂行することができるかということ、すなわちどれくらいのパワーを身体がつくり出すことができるかということです。
例えば100kgの重さの物があり、それを10m動かします。
単位を気にせずに考えると、仕事は100kg✕10mで1000となります。パワーはこれに時間を含めて考えます。人が物を押すとして、10秒で押せたなら1000/10でパワーは100となります。
別の人が同じ仕事を5秒でできたとすると1000/5でパワーは200となります。つまり後の人のほうが大きなパワーをつくり出せたということになります。
では、この人は高いフィットネスを持っているでしょうか?
そうではありません。
これは1つの限られた分野を見ているだけです。それだけでフィットネスの高低を評価することはできません。定義にあるように「広範囲の時間域、運動域」を評価に加えなければなりません。
例えば、持久力のとても高いマラソン選手はフィットネスが高いと言えるでしょうか?
短時間で非常に高いパワーを出すウエイトリフティングの選手はどうでしょうか?
彼らは彼らの専門分野では高いパフォーマンスを発揮することができますが、逆にマラソン選手がウエイトリフティングをできるでしょうか?さらに、ウエイトリフティングの選手が5kmを20分以内で、あるいは400mを1分以内に走れるでしょうか?
彼らは彼らのスポーツの分野では優秀なアスリートでしょう。しかし、このようなアスリートが常に高いフィットネスを持っていると言えるでしょうか?そうではありません。彼らは単一分野に長けるために他の身体能力を犠牲にしてしまった偏ったアスリートであり、高いフィットネスを持っているとは言えないのです。
つまりフィットネスが高いということは、すべて分野で偏らないバランスのとれた身体能力を持つことです。デッドリフト、スクワット、スナッチなどの重い物体を移動させる動作、または短中長距離走などの瞬発力、持久力のともなう動作、さらには懸垂、腕立て、バービーなどの自重での動作、これらすべての分野で高いパフォーマンスをあげることのできる身体状態を言うのです。
これを実現するために、クロスフィットでは心肺機能、スタミナ、筋力、柔軟性、パワー、スピード、動作連動性、俊敏性、バランス、動作正確性の10項目すべてを向上させるのです。このようなフィットネスこそが、スポーツ選手に勝利をもたらし、警察官、消防士、そして兵士の生還率を高め、高齢者が自立した生活を送るためにも必要な能力です。すべての人間にとって必要なフィットネスとはこのようなフィットネスであり、違いとはその度合いでしかないのです。